歴史から抹消されつつある英雄たち


ところで、浄瑠璃には時代物というジャンルがあります。
その中でも「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」は名作で、後に三大時代物と呼ばれるようになります。
それぞれ何を題材にした話か解りますか?


仮名手本忠臣蔵」は、忠臣蔵ですね(って説明になってない?)。赤穂浪士の吉良邸討ち入りを題材にした話。
義経千本桜」は、平家を滅ぼした手柄を立てたのに、兄に追われる事になった源義経と、実は生きていた(という設定の)平家の武将の話。


パッと見、何の話だかよく解らないのが「菅原伝授手習鑑」。
忠臣蔵は年末恒例だし、義経大河ドラマにもなったし・・・・・
菅原道真の生涯とその後の話です。


菅原道真って誰やねん?って方もいると思うので説明を。


彼は平安時代に生きた、日本最高クラスの漢詩人です。「菅家文草」や「菅家後集」などの詩集を遺しています。
26歳で当時最難関の国家試験に受かり、33歳で文章博士(当時の大学教授:定員2名)になり、天皇の信任も厚く
「新撰万葉集」の選者、「類聚国史」(歴史書)の編集などの国家プロジェクトも任されています。


文学だけでなく、法律と数学にも通じ、政治家としても活躍します。
55歳でついに右大臣となった道真は税制改革に着手。傾いた国家財政を見事立て直します。
が、政敵の藤原時平にハメられて大宰府に左遷され、その2年後には死んでしまいます。


その後、藤原時平が急逝し、都を災害が襲ったので、人々は「道真の祟りでは?」と噂しました。
(誰の目から見ても、藤原時平が悪者であった事が明白だったのではw)
朝廷は菅原道真を右大臣に戻し、神として北野の地に祀りました。
また従者の味酒安行は神託を受け、道真の墓所に神殿を建て、天満大自在天神として祀りました。


人々は悲劇の敏腕政治家、希代の詩人であり、名(天満天神)実(都を恐怖に陥れるパワー)ともに神となった道真を、
学問の神様としてまつるようになりました。
天満天神を祀った神社(いわゆる天神さま)は全国に1万社あまりあります。

あらゆるものに神が宿っていると考えた昔の日本人。
けれど歴史を振り返ってみると、人から神になるのは激レア。
他には応神天皇八幡大菩薩(いわゆる八幡さま)として祀られているくらい?
(けど応神天皇記紀に登場する、そもそも神様みたいな存在だし・・・・)


菅原道真はそれだけの実績があった人物で、聖徳太子源頼朝らと並ぶ日本史上の英雄です。



が、しかし。現行の8社の中学歴史教科書のうち、扶桑社以外の7社の教科書には菅原道真についての記述がないのです。
(読売新聞 2005年5月26日社説)
彼が一体何をしたというのか・・・・彼が存在すると、都合が悪い事でもあるのか?