はてなき演算世界の旅人たち

その世界は、かつては荒野だった。何も無かった。その世界の名を、演算世界という。



そこには多くの旅人が訪れた。何かを探しに・何かを作りに・何となく。

この世界にも神がおられる。神がこの世界を創られた。神々はハッカーと呼ばれた。

ある者は神の恩恵に感謝し、ある者は自らが神となり、世界を拡張した。誰でも神になれた。



旅人は助け合い、神々も(時には楽しみつつ)旅人を守ったが、多くの者が、旅半ばでたおれた。

この世界の神々は、万能でも永遠でもなかった。けれど、神々が創った世界は、ずっとそこにあり続けた。

旅人の、やりかけの旅は、別の旅人が引き継いだ。誰に頼まれた訳でもなく。



そんな演算世界のどこかに、あるとき1本の木が生まれた。ついに、その木が育つだけの環境が整った。

木は、またたくまに数を増やした。全ての木は、最初の木の子孫であり、ある1本の木は、他の木全てとリンクしていた。

木は森となり、旅人を木陰で癒した。離れて立つ木は、旅人の標となった。その木の名を、はてなの木という。



はてなき世界の旅人は、今日も木を通じて、他の旅人と意思を交換する。彼らはもはや、旅人たちであった。